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JJの気まぐれブログ

キャリアポテンシャル

毎年3月が近づくと自然とモチベーションが上がる気がする。天候が大きな要因ではあるのだが、モヤモヤ暗い冬を抜け春になるこの季節は好きだ。今年はまだまだ肌寒いが、雨は減り、太陽も見えるようになってきた。年末年始の絶不調からは考えられないほど、毎日エネルギーに満ち溢れている自分の心身に自分でも驚いている。さて、そんな2月末だが、今回は自分のキャリアにフォーカスして、現在の構想を書いてみたい。

自分のここまでのキャリアを振り返ると、20216月にUWを生化学専攻で卒業し、20226月まではローカルの製薬会社で1年製造に携わり、6月に転職をしてからは製薬業界の中でも大企業と呼ばれる会社のQC(Quality Control)チームで働いている。この転職は自分の中でとても良い転機になった。年末まで最初の半年は、慣れることとプライベートで精一杯だったこともあり、そこまで大企業のメリットは享受できていなかった。それが1月末から急に見え方が変わった。

僕が勤めている会社のメイン事業は、ガンの患者さんをCAR-T Cell Therapyという方法で治療することだ。ターゲットはアメリカ国内の患者さんが大半を占めてはいるが、そこに加えてヨーロッパと日本もマーケットになっている。現在は製造とQCテストのほとんどの工程はアメリカで行われているため、ヨーロッパと日本からは空輸でサンプルが運ばれてきて、全ての工程を終えてまた患者さんの元に空輸で戻っていく。この基礎情報は仕事をしながら知っていたのだが、日本からのサンプルもアメリカ国内からのサンプルも、取り扱いに特に違いはないので、あまり気にすることはなかった。だが、年が明け1月中旬になった頃、ふと思った。せっかく日本にオフィスがあるのなら、日本で働いている人とも話してみたいなと。慶應薬学部の同期も3月で卒業だが、2人ほど同じ会社の日本支部に内定したとも聞いていたため、コネクションを作ってみるのも面白いかなと思ったのが始まりだ。

とはいえ日本支部にいる知り合いは一人もいない中でのスタート。限りある脳細胞で思いついた作戦はLinkedInという、キャリア版SNSでのアプローチ。LinkedInでは会社とその人の住んでいる地域でソートをすることができる。それを利用して、日本支部で働いていてLinkedInをアクティブに使っている人を絞り出した。何人かにメッセージ付きで、「長年日本に住んでいたこともあり、日本でのキャリアにも興味があるので、お話しさせてもらえると嬉しいです」といった内容のリクエストを送った。すると、びっくりすることに一人の方からはすぐに返信が来て、軽くチャットをした後にミーティングをセットアップしてもらった。その方は10年ほど先輩のりなさんという方で、1月末にビデオ通話をしてから全てが好転し始めた。

りなさんはとてもフレンドリーな方で日本支部で顔が広い。僕がキャリアの悩みや今のプランなどをシェアすると、親身に話しを聞いてくれ、これからできる限りのサポートをしてくれると言ってもらえた。実際このミーティングの翌週には、日本支部の新卒12年目の同世代とのオンラインランチ会を企画してくれ、その時に話した4人とは連絡先も交換し仲良くなれた。そして、さらにシアトル支部と繋がりの深い、日本支部の選りすぐりのエリート達とのミーティングまでセットアップしてくれた。その時に話しをしたのは全員40代以上の大先輩方で、この業界のことを知り尽くしているプロ達だ。終始緊張したが、皆腰が低く、無知な若者の質問に対しても丁寧に答えてくれた。

ここまででも十分想像以上の出来なのだが、更に大きなチャンスが待っていた。話しをさせてもらった大先輩方の中の一人の梅本さんという方が、翌週にシアトルに出張に来るというのだ。着いたらお気軽に連絡くださいとは伝えたものの、相手は20歳も上だ。いくらシアトルオフィスに日本語を話せる若者がいたとて、相手にしてもらえないと思っていた。ところがどっこい。出張に旅立つ前日に梅本さんから連絡があり、シアトルにいる間にご飯に行きましょうと誘われた。聞くともう一人の同僚と一緒に来るのだが、二人ともシアトルは初めてで、アメリカっぽいレストランに行ってみたいとのこと。これはチャンスだと心の中でガッツポーズした。

彼らがシアトルに到着したのはおととい水曜日のこと。ディナーは木曜日の夜に行くことになっていた。僕はシフト的に木金土は休みで、今週末は特に予定もなかったため、出来る限り二人のサポートをしようと考えていた。木曜日は二人はオフィスでマネージャー達と会議をしているとのことだったが、ランチ休憩に挨拶をしに行った。オフィスの労働環境やカルチャーなど、マネージャー達に聞きにくいことを僕に聞いてくれたため喜んで説明した。金曜日のスケジュールを聞くと一日中ラボと施設のツアーがあると言っていた。このツアーは訪問者のために特別に行われるもので、僕を含め内部の人は自分の部署以外のラボには基本的に入ったことはない。

金曜日のツアーも二人のためのものなので他に参加者はいない。だが、僕は彼らと色々話しをして、これから日本のマーケットが拡張しそうなことや、シアトルオフィスでも日本語を取り扱えるだけで需要のあるプロジェクトがあることを聞いていたため、これは攻めるしかないと思った。二人にはJJにはシアトルで日本の窓口的なポジションを担ってもらいたいと言ってもらい、そういう可能性もあるのかと気づかさせられた。となると、会社のマネージャー陣に僕が日本語を話せることと、日本にコネクションがあることを知らしめておく必要がある。ということでダメ元で、ツアーをスケジューリングした秘書に、僕も彼らと一緒にツアーに帯同させてほしいと頼んだ。するとものの10分で秘書が各部署の案内担当に連絡を入れてくれ、参加が決まった。金曜日は休みだが、これも休日出勤の扱いになるため、お金を貰いながら貴重な体験をさせてもらえるという一石二鳥になった。ウキウキしながら夜は二人とディナーでまた色んなアドバイスを貰った。

今日はそのツアーの日だったのだが、学び多き一日となった。行ったことのない部屋に全て入ることができ、やっとこのオフィスで何を行っているのか全体像が見えてきた。そして、二人の専門的な質問などは日本語でしてもらい、僕が翻訳をしたりなどもした。二人には助かると喜ばれ、案内しているマネージャー陣には僕のマルチリンガルスキルを初めて見てもらえた。そして最後となったQCフロアの案内でも、シフトが異なるため普段あまり接する機会のないマネージャー達に存分にアピールができた。これは非常に大きなマイルストーンで、皆んな僕が日本語を話せることに驚いていた。

僕の知る限り、500人を超えるシアトルオフィスに日本語話者は一人もいない。だが、日本はこの会社では三大マーケットの一つであるため、日本語のスキルや日本のレギュレーションについての理解などが非常に有意に働く。二人によると、現在日本で行なっていることの幾らかのことは、シアトルに日本語を理解している人さえいれば、わざわざ空輸せずにシアトルで終わるプロセスだという。他にもドキュメントやミーティングなど様々な場所で、日本語の需要はあるとのこと。自分のポテンシャルは今回の機会でアピールできたため、ここからはプッシュの期間だ。普段話すことのない雲の上の存在のお偉いさん方に、いかに自分の熱意を伝えられるか。そしてもしプロジェクトを与えられたら、どれだけの結果を残せるか。全ては自分にかかっている。

アメリカは良くも悪くも言ったもん勝ちの世界だと思う。どんなに無理そうなことでも、理由とともに伝えることさえすれば、意外にすんなり欲しいものが手に入ったりするのだ。もちろん口に出すのは怖かったりもする。自分は所詮この業界2年目の若造だ。20年以上の経験を持つ人達に比べれば何も知らないも同然だ。ただ日本語が話せるというだけで、チャンスが広がるほど甘くはないことも重々理解はしている。だが、熱い気持ちを持っている時の自分の爆発力には自信がある。期待はしすぎずに、プッシュをし続けて、将来的にはアメリカでアジアのマーケットを担当させてもらいたい。それが5年後になるか10年後になるか、それとも一生不可能かは今はわからない。でもトライする価値はあるだろう。まだまだ大学院進学の有無や、近い将来の他国への転勤への興味など、自分でもどうしたいかわからないことはたくさんある。二人に言わせれば、この悩みを持っている時点で十分に誇るべきことだと言う。今の自分を見て、「心の底から羨ましいしこれから何も心配することはない」と言ってもらえたことは大きな自信になった。もしかすると自分のキャリアにおける一番の課題は、精神面なのかもしれない。安定している時や、今のようにモチベーションが高い時は全てが良い方向に進むのだが、落ちた時に歯止めが効かなくなる。もしかするとこのままシングルの方が、キャリアだけを見るとうまくいく可能性が高いのかもしれない。

アクションを起こしたのは自分ではあるが、りなさんや梅本さん、そして繋がることのできた日本支部の人達には感謝しかない。これからも良い関係をキープできるよう最善を尽くしたいし、やっぱりいつか一緒に働いてみたいなとも思う。色んな人とキャリアの話しをしながら、自分の強みと弱みが見えてきたような気もする。強みはコミュニケーションとマネージメント。弱みはラボの仕事など細かさ・丁寧さが要求される仕事。自分は製薬業界では、研究開発やラボでテストをする”プレイヤー”にはあまり向いていない気がする。それよりも、そのプレイヤー達を統率したり、彼らの功績を他人に伝えたりする方が向いている。とりあえず今年は、なんて長い目標は立てずに、まずはプッシュのアクションを起こせるよう勇気を持って毎日仕事に向かいたい。やったるぞ!